本の引き出しを開ける6月|エッセイ新刊3冊
文:新刊日和編集部 | 2026/6/27
エッセイを読むことは、他人の本の引き出しを開けてもらう行為だ、と私は思っている。そこに何が入っているかを知ることで、書き手という人間の輪郭が見えてくる。6月のエッセイ新刊に、その意味で読み応えのある3冊が届いた。
本の引き出しを覗く:6月のエッセイ3冊
エッセイという形式が最も正直に機能するのは、書き手が「この言葉を使いたい」という衝動を抑えず、かつ「この事実から逃げない」姿勢を持ち続けるときだ。その両立は意外と難しい。だから良いエッセイは少ない。今月は読み手を引き込む3冊が揃った。
アダムとイブの対話|谷川俊太郎と和田誠の往復する言葉
2026年6月22日、中央公論新社の中公文庫から谷川俊太郎と和田誠による「アダムとイブの対話」が刊行された。谷川俊太郎は1931年生まれの詩人で、「二十億光年の孤独」から現在に至るまで日本の詩壇に独自の地位を持つ。和田誠は1936年生まれのグラフィックデザイナー・イラストレーターで(私が確認できた範囲では2019年に逝去)、長年にわたって本の装丁や映画評論でも活躍した。
定価1,200円。
タイトル「アダムとイブの対話」からは、男性と女性、詩と絵、言葉と図像の交差が想像できる。中公文庫での刊行は、この対話を文庫という形で受け取り直す機会だ。詩が苦手な読者には率直に言う。これは詩集として読むより、谷川と和田という二人の「話し声」として読む本だ。声のトーンを楽しむつもりで手に取るなら、問題ない。
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女の子未満|鈴木涼美が開ける引き出し
6月25日、講談社から鈴木涼美の「女の子未満」が刊行される。鈴木涼美は東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社記者を経て作家・社会学者として活動する書き手で、「ギフテッド」「娼婦の本棚」などの著作で知られる。いずれも女性の身体と言葉の関係を正面から論じる姿勢が一貫している。
「女の子未満」というタイトルは挑発的だ。女の子になりきれないまま時間が過ぎた、あるいは「女の子」という言葉の重力圏から外れた経験を持つ書き手が、その経験を解体しようとしているタイトルに見える。内容の詳細は私が確認できた範囲にとどめるが、鈴木の仕事の文脈から言えば、手放しで読みやすい本ではないだろう。それを承知で手に取る人向けだ。
ビールと古本のプラハ[新版]|遠い都市の本棚から
6月24日、白水社の白水Uブックスから千野栄一の「ビールと古本のプラハ[新版]」が刊行された。千野栄一はチェコ語を専門とする言語学者・翻訳家として知られる書き手だ。プラハとビールと古書という組み合わせは、それだけでこの本の色彩を語っている。定価1,500円。
チェコという国が、日本の読書界でどれほど深く味わわれてきたかを考えると、千野栄一という存在は軽くない。「ビールと古本のプラハ」は、ある時代の知識人がプラハという都市に見た何かの記録だ。新版での刊行は、その記録を今の読者に手渡すための仕事だと思う。
ここだけの話、チェコ文学に全く興味のない人には届きにくい本だと思う。ただ、知らない都市の古書店を想像しながら読む体験に価値を見出す読者には、この本の引き出しは豊かに開く。
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3冊を並べると、それぞれの引き出しの中身がまるで違う。詩人と画家の往復書簡。社会学者の解体作業。チェコ語学者の遠い都市への視線。あなたの本の引き出しと最もよく合うのはどれだろうか。新刊日和のトップページでは、今月届いた他ジャンルの新刊も確認できる。
