『伊藤整 太平洋戦争日記』を読む
澤井 繁男
エッセイ故郷・札幌市となんらかの関わりのある九篇の短篇集……… 大通公園・北海道大学を背景とした、夢想的な「噴水」から、人工透析、結婚、錬金術、幼少期のほろ苦い思い出、家族、恋愛、南欧の説話を下敷きにした「水影」、「心臓」までのさまざまな小説群。これらは「私」のすべてで、どの作品にも「私」が宿っている。故郷・札幌に、一日や二日戻っても、長らく帰郷せずにもう40年あまりが過ぎた。街並みも変わってしまっていることだろう。なぜか帰るのがこわい気もする。昭和29(1954)年生まれの「私」は18歳で故郷を後にし、東京に6年、京都に25年、大阪府箕面市に22年、と西へ西へと移動してきた。もうそろそろ、ここで終わりにしたい。移り住んだ、それぞれの街を背景にした作品も描いてきたが、今回の短編集を描き上げ、やっと札幌に戻ったという感慨を深くしている。なお、9作中「水彩」だけが『逍遙通信』第10号(札幌市、2025年)所収の「成死」を修正・加筆したもの。他の短篇はすべて書き下ろしである。
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