(新装版)虚無回廊
小松 左京
日本文学『エセー』の著者ミシェル・ド・モンテーニュ(1533-92年)と『パンセ』の著者ブレーズ・パスカル(1623-62年)--フランスが生んだ二人の巨人は、一見すると正反対の思想を説いたように見える。 短い生が過ぎ去るのを惜しみ、自然からの恩恵である感覚的な歓びを、今この瞬間に十全に味わい、反芻する、と宣言したモンテーニュ。それに反発して、はかない現世の享楽を斥け、信仰に生涯を捧げることで、来世への「希望」というこの世の最大の幸福が得られる、と力説したパスカル。 この二人は生きる時代をともにすることがなかったため、もちろん直接の交流はない。だが、パスカルは先人モンテーニュを最大の論敵と見定め、その思想を深く理解した上で、それに挑むようにして『パンセ』を執筆していった。事実、パスカルはこんな一文を残しているーー「モンテーニュのなかに私が見ることのすべてを、私はモンテーニュのなかにではなく、私のなかに見つける」。 このような深い共感を示しつつ、しかしパスカルはモンテーニュの「死についてのまったく異教的な考え」を問題視した。
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